内覧 物件A

初めて見に行く物件は建売らしからぬ凝った内装の、ハイセンスな家だった。写真だけでウットリするほどの内装は他の建売とは一線を画すこだわりを感じた。

「こんな家に住んでみたい!」そう思わせるおしゃれさがあった。

 

ただ、物件を見に行く気はなかった。その地域は地盤がすごく悪いのだ。

家を建てるとき、地盤改良をするので地盤が悪くても問題はない。でも地震が起きた時「液状化しやすい地域」というのはつまりインフラの復旧に影響しやすいということだと思う。

それに地盤調査・改良の義務は比較的最近出来た決まりなので、災害時に自分の家だけ無事で周りの家が無事じゃないという状況もよろしくない。

出来たらみんな無事でいたい。

 

それでも見に行くことにした理由は、不動産屋のメールが丁寧かつ迅速、そして物件のメリットとデメリットが書かれていたことだった。

問い合わせた8件のうち、自主的に物件のデメリットまで示してくれたのはこの担当者だけだった。それが信用に足る気がした。

それにすごく凝った内装を一度直に見てみたかった。ここを物件Aとする。

 

物件Aの内装は本当に素敵だった。地元の工務店が、その地域だけにしか施工しないそうだ。職人も、親方が選んだ人しか使わないという。特徴的な造作家具と照明や内装のセンスは見ただけでこの工務店が施工したと分かるほどで、同じ地域で他に1件情報サイトで見かけた。

 

不動産屋の担当者は終始穏やかで丁寧な物腰、物件の説明はしながらも営業らしいトークは一切しなかった。

不動産屋巡りをするのは今住んでいる賃貸アパートを探した時と一度引っ越そうかと物件探しをした時(引っ越さないほうがいいですよと言われて引っ越すのをやめた時)だけだったけど、もっとヒリヒリするものだった。

どうですか? ここにしますか? 他も紹介しましょうか? ご予算はいくらまでですか?

そういうプレッシャーを感じるのが不動産屋巡りの印象だった。

帰るまでその担当者は営業トークをしなかったし、こちらの年収や職業を聞いたりもしなかった。こちらを値踏みしない接客スタイルは好感が持てた。

要望を聞いて、「イメージが分かってきたので似た物件が出たらメールで送ります。全部に返信するのは大変だと思うので、気になる物件があったらご連絡ください」と言った。

 

もうここに住みたいと思ったほど素敵だったけど、駐車場が狭かったのが難点だった。

正直駐車場が広かったら地盤と天秤にかけて真剣に悩んだと思う。それほどキュンとする物件だった。